ネーミングの重要性

商品・サービスのネーミングは、消費者に強いインパクトを与え、購買意欲を掻き立てるために重要な要素です。 ネーミングは、見やすさ、読みやすさ、イメージ、インパクト等を考慮して決定されますが、ネーミングにより商品の売り上げが左右されるということも少なからずあると思います。親しみやすく、覚えやすいネーミングであれば、印象に残りやすく、消費者の間に広く浸透させることができます。 しかしながら、品質や効能がすぐ分かるようにそれらを表す語をダイレクトにネーミングとしたり、覚えやすいように簡単な語で構成したりした場合には、商標登録や使用の際に不利益を被ることがあります。ここでは、商標法的な視点から、ネーミングについて考えたいと思います。

採択時の注意点

ネーミングを商標登録するためには以下の要件を満たすことが必要です。したがって、ネーミング採択時から、以下の点について考慮しておくことが大事です。

(1)自己の商品/役務について、他人の商品/役務と区別させることができるネーミングであること

品質をダイレクトに表したネーミング(例えば新商品の洗剤に「よごれがよく落ちる洗剤」)を付ければ、消費者はその商品の品質をイメージしやすくなり、消費者の購買意欲を掻き立てることができます。 しかしながら、このような商品の品質等を直接的に表すネーミングは、基本的に商標権を取得できないことから、ネーミングの独占的使用および他社の使用の禁止・排除ができません。つまり、商品の事業展開に不都合が生じる可能性があります。 具体的には、以下に該当するネーミングは商標登録を受けることができません。

①商品・役務の一般的名称

例)商品「パーソナルコンピュータ」に商標「パソコン」

②商品/役務について慣用されているネーミング

例)役務「宿泊施設の提供」に商標「観光ホテル」

③商品/役務の産地・提供場所・品質・質等を記述的に表すネーミング

例)商品「リンゴ」に商標「青森リンゴ」   商品「茶」に商標「おいしいお茶」   商品「スナック菓子」に商標「ポテト」

④多くの者が同種商品等に使用しているネーミング

例)役務「飲食物の提供」に商標「愛」、「蘭」 上記のようなネーミングは、誰もが使う必要がありますし、誰もが使用を欲するものですので、一企業が独占することは適当ではありません。また商品「リンゴ」に「青森リンゴ」のような語を使用することは、上記理由に加え、リンゴを流通過程に置くときに必要な表示となります。したがって、その商品は他人の商品と区別化できず、商標登録を受けることはできません。 但し、上記のようなネーミングでも下記のようにアレンジを施したり、長年の使用により有名になったりした場合には、商標登録できる可能性があります。 ・ネーミングを特殊書体にする(ロゴ化する) ・図形を付加する ・文字を少し変更して造語化する(例えば、「くん」や「ちゃん」を付けて擬人化、アルファベットの単語で語尾だけ変えるetc.)

(2)公益的見地の観点から産業政策上認められるネーミングであること

ネーミングが国民や機関の尊厳を害するもの、商品の内容・品質を消費者に誤って認識させるもの等、公益を害する商標である場合や他人の登録商標と抵触関係にある場合は登録されません。 ネーミングが国民や機関の尊厳を害するものの例としては、世界遺産の地名を商品名にしたものや、「オリンピック」の語を入れてネーミングしたもの等が挙げられます。 また、商品の内容・品質誤認を生じさせるようなネーミングとしては、商品「砂糖」に「○○の塩」とネーミングした場合などが挙げられます。

(3)私益保護の観点から産業政策上認められるネーミングであること

上記(1)(2)をクリアしたとしても、そのネーミングと似たようなものがすでに先行商標として登録されていたり、第三者の著名商標として使用されていたりする場合には、その商標は登録できません。そればかりか、先行登録商標の権利者に無断で使用した場合には、商標権侵害となるおそれがあります。 したがって、ネーミングを採択する際には、第三者が既に登録していないネーミングであるかを確認しておく必要があります。先行登録商標が見つかった場合には、他のネーミングを考えるか、少しネーミングを変更して抵触を回避するか、先行商標権者と商標権の譲受について交渉をするか、等の対策をとらなければなりません。

ネーミングの種類

(1)構成について

ここではどのようなネーミングの構成があるのかご紹介します

① 一つの単語

例えば、ソフトウエアに「ビタミン」など

② 単語の組み合わせ(結合)

例えば「ビタミン」+「キャップ」で「ビタミンキャップ」など

③ 略語や頭文字

例えば「ビタミンキャップ」を略して「ビタキャ」など

④ 辞書上の意味を持たない単語(造語)

例えば、「ルバカラ」など 単語や単語の組み合わせの場合には、言葉から意味(イメージ)が生じるため、商品のイメージに合った単語を選択することが重要になります。一方、意味を持たない造語の場合には、言葉の見た目や音感を商品のイメージと結びつけて選択することになります。また、英語以外の外国語で商品のイメージに合う言葉を選択することもあり、化粧品や衣料品の分野ではよく見られます。

(2)階層について

ひとえにネーミングといっても、企業名からシリーズ名、個々の商品名など様々な対象があります。ここではネーミングの階層についてご紹介します。

① ハウスマーク

ハウスマークは「企業名等の営業標識」となるものであり、会社名の一部をロゴ化したものや、図形と結合させたものが多いです。ハウスマークは広く使用され、需要者の目によく触れるものであるため、最も重要度が高いといえます。
<ハウスマーク登録例> ・トヨタ自動車株式会社の「TOYOTA」 ・ソニー株式会社の「SONY」

② ファミリーネーム、カテゴリーマーク

カテゴリーマーク、ファミリーネームとは、「個別商品より大きな概念であるカテゴリーやシリーズを示す標識」です。
<カテゴリーマーク、ファミリーネーム登録例> ・トヨタ自動車株式会社の「カローラ」、「クラウン」

③ ペットネーム

ペットネームは、「個別の商品名」です。
<ペットネーム登録例> ・トヨタ自動車株式会社の「フィールダー」、「マジェスタ」 ・ソニー株式会社の「WALKMAN」 ・パナソニック株式会社の「VIERA」

ネーミング成功事例

誰もが知っているアイスキャンディーの「ガリガリ君」。これは登録商標です。このネーミングは当初「ガリガリ」だったそうです。もし、アイスキャンディーを商品として「ガリガリ」について出願していたら登録されない可能性が高いといえます。「ガリガリ」は堅いものをかみ砕いたりひっかいたりするときの音を表す語であり、アイスの品質等を表す記述的なネーミングだからです。 しかし、「ガリガリ」に「君」をつけた「ガリガリ君」であれば商標登録は問題なく、さらに擬人化することで親しみ易いイメージも与えることができます。また、「ガリガリ君」なるキャラクターを活躍させることで、さらに需要者に強い印象を与えていますね。

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この記事の監修者

八谷 晃典 (はちや あきのり)
大阪法務戦略部長 弁理士/特定侵害訴訟代理人 スペシャリスト

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