マドプロとは?プロが解説!

マドプロは商標の国際登録について定める国際条約のことで、正式にはマドリッドプロトコル(マドリッド協定議定書)といい、日本は1999年12月13日にこの条約に加盟しています。

所定の言語で作成した1通の出願書類を、自国の特許庁経由でWorld Intellectual Property Organization(WIPO)へ提出することにより、各指定国に一括して出願した場合と同等の効果を得ることができる手続方法です。

アメリカ、イギリス、韓国、中国、フランス、ロシアなど2023年3月現在130の国をカバーする114の国が加盟しています。一方、台湾、香港等の国は同時点では加盟していないため、これらの国で商標権を取得する場合は直接出願を行わなければなりません。

手続きの流れ

(詳しくは「手続きの流れは?」ページをご参照ください)

下に、直接出願とマドプロ出願(議定書出願)のフローチャートを示しています。

直接出願では、出願国の代理人を通じて、当該国の特許庁へ直接出願しているのに対し、マドプロ出願の場合は、出願国の代理人を必要とせず、自国の特許庁へ出願している点が異なります。

マドプロ出願では、出願後「自国特許庁→WIPO」の順に審査され、方式的要件が具備されていれば、国際登録されます。そして、各指定国にて実体的要件がそれぞれの国の基準で審査され、問題がなければ各々の国で商標登録されることになります。

注意しなければならないのは、国際登録がなされても、それだけではそれぞれの国の商標権が取得できているわけではない点です。

国際登録されるまでの間に審査されるのはあくまで方式面の審査にとどまるため、各国における商標権の取得には、国ごとの審査基準に基づいた実体的要件の具備が個別に認められなければなりません。

特許庁:“商標の国際登録制度((マドリッド制度))について”より

出願条件

①基礎出願・基礎登録の必要性

国際登録したい商標が、自国の特許庁に出願あるいは登録されている必要があります。この事前の出願と登録のことを基礎出願、基礎登録と呼びます。

②商標の同一性

マドプロ出願の商標が、基礎出願・基礎登録と同一でなければなりません。この同一性は厳格に要求され、例えば、日本国内商標として、日本語とその英語表記を二段組みで並べた商標が登録されていても、この英語部分だけを抜き出して、英語のみの標章からなる国際出願の基礎登録とみなすことはできません。

③指定商品・役務の同一性

マドプロ出願で指定する商品・役務の範囲が、基礎出願・基礎登録で指定している商品・役務の範囲内(完全一致含む)でなければなりません。

④出願名義人の同一性

マドプロ出願を行う時点で、その出願名義人が、基礎出願・基礎登録の出願名義人と完全に同一でなければなりません。なお、マドプロ出願後に出願名義人を変更することは可能であり、その結果として名義が同一でなくなっても問題ありません。

⑤出願人の身分制限

出願人は自国民又は自国内に住所または居所(法人にあっては営業所)を有する外国人でなければならず、二人以上の出願人がいる場合は、出願人の全員についてこの条件が満たされることが必要です。

メリットとデメリット

(1)メリット

①費用の節約

一般的に、直接出願に比べてマドプロ出願では費用が節約できます。 直接出願の場合は、それぞれの国で現地代理人費用が必要となり、さらに、それぞれの国ごとの言語に翻訳する費用も発生します。

他方、マドプロ出願の場合は、現地代理人を選任することなく手続を進めることが可能であり、言語についても「英語、フランス語およびスペイン語」と定められているので、翻訳料を抑えることができます。

 ※マドプロ出願の言語について、日本特許庁では、英語のみ受け付けています。
 ※国際登録後の各国の実体審査の結果、拒絶理由が発見され、それに応答する場合にのみ、その国の現地代理人を選任する費用や翻訳料が発生します。

②手続・管理の簡略化

マドプロ出願を利用すると手続や管理がシンプルになります。自国の特許庁を窓口にして一度に複数の国に出願することができ、商標権の存続期間の更新や所有権の移転、名義人変更の申請等をWIPOに対する一回の手続で済ませることが可能となります。

③迅速な審査

直接出願に比べて、マドプロ出願では審査期間を短縮できます。マドプロ出願を利用した場合、それぞれの国ごとの審査期間が1年(又は18ヶ月)に制限されます(マドリッド協定議定書第5条)。

この制限によって、遅くとも一年半後には、出願結果を知ることができます。これに対して、直接出願の場合には、この制限を受けないため、国によっては審査結果が通知されるまで18ヶ月よりも長い期間を要する恐れがあります。

当初の出願時点では指定しなかった国や新規加盟国を事後指定の手続で指定国として追加することが可能です。これによって事後的な保護範囲の拡張を図ることができます。また、保護の拡張とは反対に、事後的に保護が不要となった指定国については、その国についてのみ権利を放棄することで、不要な権利維持費を節約することができます。

(2)デメリット

①基礎出願・基礎登録との同一性が要求される

マドプロ出願と基礎出願・基礎登録の同一性が要求されます。

②セントラルアタックの危険性

セントラルアタックとは、国際登録の日から五年以内に、自国での基礎出願または基礎登録が、拒絶・放棄・無効・取消などによって消滅した場合、それに対応する国際登録の権利範囲(指定商品・役務の範囲)についても効力が失われるという制度です(マドリッド協定議定書第6条)。

もし仮に、マドプロ出願後にセントラルアタックによって国際登録の効力が失われてしまった場合、各国出願に移行する救済措置はありますが、出願・更新・移転等にかかる手間が膨大なものとなります。

ですから、実際のマドプロ出願の際には、このセントラルアタックのリスクをなるべく低減するように行動する必要があります(例えば、基礎出願に基づいてマドプロ出願する場合よりも、基礎登録に基づいて出願する場合の方がセントラルアタックのリスクは低くなります)。

③出願後の区分変更が不可能

ママドプロ出願では出願後の指定区分変更が認められていません。よって、ある商品・役務について、自国で分類している区分と、外国で分類している区分が異なる場合、当該外国での実体審査において、区分違いによる拒絶査定が下されます。

直接出願の場合は、正しい区分に補正をすることが認められているので、この拒絶査定に対応できますが、マドプロ出願の場合は区分変更ができないため、登録できないことになります。

ですから、マドプロ出願の前に、その商標でカバーしたい商品・役務の自国内での区分と、外国における区分を調査することが非常に重要です。

HARAKENZOが全力サポート

以上のように、マドプロ出願には非常に大きな利便性がある反面、事前に注意しなければならないポイントが多々ございます。

当所は、高い専門性と海外出願に関する豊富な実務経験を持った多数の専門スタッフを擁し、マドプロ出願のあらゆる局面において、お客様の海外戦略を全力でサポートいたします。

この記事の監修者

八谷 晃典 (はちや あきのり)
大阪法務戦略部長 弁理士/特定侵害訴訟代理人 スペシャリスト

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