はじめに

音楽は、古くから人々に親しまれている文化です。

 人々は音楽で気分を変えたり、感傷に浸ったり、また娯楽としてだけでなく個人や社会・思想の表現として用いられており、我々にとても身近でなくてはならない大切なものです。日本においても、伝統的な楽器から最新技術を駆使した電子楽器まで多様な音楽が生み出されており、文化と経済の発展に重要な影響を与えています。

 時代の変化に合わせて、ラジオ放送やカセットテープ、CD・DVDといった媒体で人々に届けられてきた音楽ですが、近年ではデジタル技術の進歩によって、インターネット配信やクラウドサービス等の全く新しい頒布方法へと進化し、音楽業界は変革をもたらされてきました。このようなデジタル主流の時代で、違法コピーの問題や、エンターテイメントの多様化等の状況が重なり、音楽ソフトの売上が落ち込んでしまっているのが現状です。

 しかしながら、それとは対照的にライブやフェスイベントなどの生で実体験できる「体感型」の音楽市場は拡大しており、ライブ収益を重視する流れが生まれつつある状態で、音楽業界は現在もなお変化の途上にございます。

 音楽に関連した問題として、著作権が議題に上ることが最も多いですが、音楽関連のビジネスを進めていく際に、商標権による保護は、消費者からのイメージや業務上の信用を守って、安全に業務を行うために大変重要でございます(もちろん、当所では著作権に関するご相談も承っております)。

 商標登録を受けるためには、特許庁の定めた指定商品・役務(サービス)区分に従って、商標出願を行う必要がございます。ここで定められている指定商品・役務というのは、一般的に思いつくものとは異なることも多く、適切な区分の指定を検討しなければなりません。

 音楽業界に関連する皆様において、商標登録を行う上で役立つ情報を知って頂きたく、このようなページを設けた次第です。

アーティスト関連について

①アーティスト名について

 現在の日本の運用では、アーティスト名・バンド名・芸名等のCD上での単なる表示は、「商品の内容を単に表す」ものと取り扱われ、自他商品の識別標識としての機能が発揮されず、原則として、商標的使用に当たらないものとして扱われます。

②グッズ展開について

 アーティストに関連してグッズ展開していく場合には、それぞれのグッズによって分類が細かく定められているため、発売する商品をよく想定して検討する必要があります。

 グッズの代表的なものについて、以下の例のようにそれぞれ分類されます。

  • 第14類:「キーホルダー」
  • 第15類:「ピック」
  • 第16類:「ブロマイド」、「スコアブック」、「ステッカー」
  • 第18類:「かばん類」
  • 第24類:「タオル」
  • 第25類:「リストバンド」、「Tシャツ」、「被服」、「履物」、「帽子」

 模倣品などで他人から権利侵害されないためにも、また知らずに他人の権利を侵害してしまわないためにも、独占権である商標権を取得しておくことは、争いを避けて安全に活動を行うための『保険』として大きな意味を持ちます。

音楽ソフト・音楽配信等について

 音楽CDやネット配信する音楽のような音源それ自体は、いずれも第9類の区分で登録を行います。CDやDVDのような有体物か、ダウンロードして利用する音楽データのような無体物では、それぞれ指定が違うので注意しましょう。もっとも、現代ではCDとインターネットの両方で販売することも多くあり、その場合はどちらも指定して登録する必要があります。

例)
第9類:「録音済みのコンパクトディスク」,
「録音済みのDVD」,
「その他のレコード」,
「インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル」etc...

◎DTMソフトについて

 DTMソフトとは、PC上で音楽を作るDTM(Desk Top Music)で使用されるソフトウェアの一種のことをいい、ヤマハ株式会社のVOCALOIDを採用した「初音ミク」等によって一躍有名になったDTMは、音楽の新たな楽しみ方として近年盛り上がりをみせています。

 そのDTMソフトの商標登録において指定する区分としては、第9類「電子計算機用プログラム」、ソフトをパッケージとして販売する場合は第9類「電子計算機用プログラムを記憶させた記録媒体」や「ダウンロード可能な電子計算機用プログラム」等が挙げられます。

音楽ライブ・音楽イベント関連事業について

 昨今では音楽ソフト市場が伸び悩んでいますが、デバイス上ではなく実際に体感できる音楽ライブ関連の市場は右肩上がりで拡大しつつあります。ここ数年でも音楽ライブ事業への参入がいくつもあり、ライブ会場の動員や関連グッズ販売の収益拡大を重視する動きが高まっています。今、音楽業界で最も熱を帯びている市場ではないでしょうか。

 上記の事業に関連する商標を出願する場合、指定すべき区分は第41類となります。

例)
第41類:「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営」,
「演芸の上演」,
「演劇の演出又は上演」,
「音楽の演奏」

楽器等について

「楽器」に関するもの全般は第15類で登録を行います。第15類に属するものは、「ギター」「ベースギター」「ドラム」「ミュージックシンセサイザー」「ピアノ」から、「管楽器」や「金管楽器」、さらには「琴」「三味線」などの伝統楽器まで該当します。

 さらには、「ドラムスティック」「ピック」「楽器用ケース」「楽器用ペダル」の楽器周辺の商品も第15類でカバーされています。

 一方、「楽器用アンプ」「楽器用エフェクター」「電気又は電子楽器用フェイザー」のような電子機器は、第9類に属しております。

小売・サービスについて

 最後に、エンドユーザーへの橋渡しとなる小売・サービス業の皆様に関わるものとして、たとえば、CDショップですと「録音済みCD及び録画済みDVDの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」として第35類で登録が可能です。

 上記(5)の楽器に関連して、楽器店の場合はCDショップと同じく第35類に分類されます。加えて、楽器の修理や調整サービスも行うのであれば、第37類の「楽器の修理又は保守」「楽器の調整」といった区分の指定も検討する必要があるでしょう。

 また、カラオケ店の場合ですと、第41類の「カラオケ施設の提供」を指定して登録を行います。

音楽業界における有名な事件

 以下、音楽業界において商標権に関わる事件から、代表的なものを3つご紹介します。

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① ローリングストーンズ ベロマーク事件(知財高裁 H22.1.13)

 ロックバンド「Acid Black Cherry(アシッド・ブラック・チェリー)」のマークとして使用されている本件登録商標であるベロマーク(図1)に対し、ローリングストーンズのマークとして有名である引用商標(図2)と混同を生ずるおそれがあるとして異議が申立てられた結果、音楽に関する商品・役務について一部取り消す異議決定が下された。これに対して、原告がこの異議決定を取り消すよう提訴した事件。

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 判決では、「両商標の外観はそれぞれ正面・斜めの立体の図であり印象が異なっており、かつ称呼・観念上も類似とはいえない。また、引用商標は音楽関係者の間でローリングストーンズの商品・役務を表示するものとして著名であり、音楽ファンの間において本件商標と引用商標を見間違え、混同するおそれはない。」として、異議決定を取り消した。

② ELLEGARDEN事件(知財高裁 H20.3.19)

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 商標「ELLE」(雑誌・被服・織物等を指定、図3は一例)を所有するフランスの商標権者(一審原告)が、ロックバンド「ELLEGARDEN」が使用する商標について差止請求等を求めた事件。

 「ELLEGARDEN」は、Tシャツ・リストバンド・ステッカー・タオル等のグッズや音楽CDに、デザインロゴ化された「ELLEGARDEN」の商標を付して製作・販売を行っており、上記行為に対して使用差止を求めた。

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 一審では、原告の請求を大部分容認し、グッズ等と音楽CDの両方に類似性を認める旨判事された。しかし、その控訴審ではグッズ等の類似性は否定され、音楽CDとWEBサイトに使用しているロゴ(図4)に関する請求以外はすべて棄却される結果となった。

 そのうち「ELLE」商標権に基づく差止請求について、控訴審では、(i)「ELLE」の語はフランス語で“彼女”を意味するアルファベット4文字・称呼でも“エル”の2文字という極めて簡単な構成であり識別力が顕著に高いものとは必ずしもいい難い側面があること、(ii)“ELLE”と“GARDEN”は分断して把握すべき外形的事情もないこと、(iii)本件ロックバンドはそれ自体著名なグループであり、平成10年から継続して商標を使用していたことなどを考慮して、またそれぞれの取引の実情等に基づいて判断すると、「ELLE」と「ELLEGARDEN」の両商標は出所の混同のおそれがなく非類似であるとして差止請求を棄却した。

なお、CDとWEBサイトに使用した(図4)標章については、「ELLEGARDEN」の表示を2段に分割してかつ「ELLE」の部分を大きく表示しており、本件「ELLE」商標と極めて類似したデザインであるため、本件「ELLE」商標と類似する判決が下された。

③ BOSS事件(大阪地裁 S62.8.26)

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 電子楽器用のアンプやエフェクター等を製造販売するBOSS(被告)は、楽器購入者に対して、「胸に大きく『BOSS』商標(図5)を、その下に小さく『for sound innovation on stage』と表示したTシャツ」をノベルティとして無償で配布していた。

 上記行為に対し、指定商品を被服等とする商標「BOSS」の登録商標権者である原告が、商標権侵害であると主張して損害賠償を請求した事件。

 判決では、「商標法における商品とは商品それ自体を指し、商品の包装や商品に関する広告等は含まない。その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の対象とされているかによって、独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体に過ぎないか判定される。被告は、商品と同じ商標を附したTシャツをノベルティとして購入者に配布したにすぎず、それを取引の目的としているものではないと認められるので、当該Tシャツは電子楽器の単なる広告媒体にすぎない。」として、原告の請求を棄却した。

”HARAKENZO more は音楽業界の皆様を応援します

音楽は、長い歴史を持ち、国・世代・性別関係なく、我々に身近でありかつ大きな影響を与える文化です。音楽業界はデジタル時代への変化とともに、著作権だけでなく商標権の複雑な問題も数多く起こると予想され、時代に合わせてあり方を変えていく必要があります。

 ”HARAKENZO more としても音楽業界の皆様の知的財産保護にお役立ちしたいと考えておりますので、まずは、お気軽にご相談頂ければ幸いです。

この記事の監修者

八谷 晃典 (はちや あきのり)
大阪法務戦略部長 弁理士/特定侵害訴訟代理人 スペシャリスト

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