我が国で取得した商標権は、日本の商標法に基づいて認められるものですから、残念ながら原則として外国では権利として認められません。

例えば海外で、国内の登録商標と同じか、よく似ている商標が使われていたとしても、対抗策を打つことができない、ということが生じ得ます。したがって、ビジネス展開の上で、外国と何らかの関係が生じると考える人は、その関係国でも商標権を取得しておく必要があるか否か、少なくとも検討を行う必要があります。

外国で商品・サービスの提供を行う場合は勿論のこと、主なマーケットは国内であっても、製造が外国で行われる場合に、その国での商標権取得が必要なことも考えられます。

このページでは、外国出願の検討の参考となるよう、外国で商標権を取得するための方法について簡単にご説明します。

商標を海外で権利化する方法

外国で商標権を取得する主な方法は「直接出願」と「マドリッド協定議定書に基づく国際登録出願(以下、マドプロ出願)」の2つがあります。

直接出願

商標権を取得したいと思う外国の指定官庁に対して、直接申請するものです。直接出願は、商標権を取得したい国に商標出願制度がありさえすれば行うことができる、最もベーシックなものと言えます。

この方法は、それぞれの国ごとの法律に従って手続きを進めていくことになります。そのため、複数の国で商標権を取得したいと考える人は、対象国の数だけ手続きをすることになります。

対象国の数が多い場合はなかなか大変なことで、出願する国ごとのルールを把握しなければならないのはもちろんのこと、通常外国へ出願をするには、その国に住む有資格者である代理人を必要としますので、代理人費用についても、予算計上しておく必要が生じます。

マドプロ出願

マドプロ出願とは、簡単に言えば、一度の手続きで多数の国々に同時に出願ができる仕組みです。出願国の数だけ行う必要のある直接出願よりも、多くの場合、楽に出願ができ、出願費用を抑えることも出来ます。

ただし、マドプロ出願を行うにあたっては主に以下の点について、留意が必要です。

 ①マドプロ加盟国以外の国と地域には出願できない

 ②日本国内における基礎出願または基礎登録が必要で、同一の商標でなくてはいけない

 ③基礎出願または基礎登録が国際登録日から5年以内に取消・無効となると共倒れする

 ④出願対象国が少ない場合は、直接出願と同等かそれ以上の費用がかかる可能性がある

 それでは流れに沿ってマドプロ出願の手続きを説明していきます。

(1)出願

出願手続は、本国官庁である日本国特許庁に対して必要な書類を提出することになります。

日本国特許庁は出願書類の方式審査を行い、問題がなければ世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局(マドプロ出願を管理している機関)に送付します。

(2)国際登録

日本国特許庁から出願書類を受け取った国際事務局は、保護対象として指定された商品役務の妥当性を審査し、問題がなければ国際登録簿(国際登録に関する全情報を記載している管理簿)に記録します。そして、国際登録証が出願人(または出願代理人)に送付されます。

なお、この時点では各国における商標権は発生していません。

(3)各国での審査

国際登録された商標について、国際事務局は指定国(出願人が出願書類において商標権を取得したいと希望した国)に「指定通報」をします。指定通報を受けた各国は、それぞれ審査や第三者による異議申立てのための公告を行います。

なお、最初に出願国として指定していなかった国に対して、「事後指定」によって対象を拡張することも出来ます。

(4)各国での権利化

指定通報の送付日から1年(指定国によっては18月)以内に「暫定的拒絶通報」を受けない場合は、原則として保護認可通知がされ、各国での商標権を取得することができます。

※注意点※

上記(1)(2)では問題があった場合、日本国特許庁への応答によって解消が可能ですが、各国からの暫定的拒絶通報に対しては、各国指定官庁へ個別の応答をすることになります。

その際は、原則として各国の現地代理人を介して手続きする必要があります。

パリ条約による優先権の主張

直接出願・マドプロ出願いずれであっても、原則として商標登録を希望する国がパリ条約の加盟国であれば、「優先権」を主張することができます。

商標登録出願をまず自国の日本で行い、その後に外国への出願を検討実施するという流れも、少なくないと考えられます。そうすると、日本での出願後、外国への出願までの間に、第三者によって同一か、よく似た商標が、当該外国において出願されてしまうこともあり得ます。

商標登録が認められるかどうかは、一部の国を除いて基本的に早い者勝ち(先願主義)ですから、この場合、自分が先に国内出願したにもかかわらず、当該外国では他人の権利になってしまう可能性が生じます。このような不利益を解消しようとするのが優先権主張という制度です。

優先権を主張した国においては、日本出願と同日に当該外国に出願された場合と同様の取扱いを受けることとなります。

例えば、日本での出願が4月1日、A国での出願が6月1日とした場合、第三者がA国で5月1日に同一の商標を出願したとしても、優先権を主張していれば、第三者の出願は先願とみなされず、A国において不利な取扱いを受けることはありません。

ただし、優先権の主張が認められるのは、日本での出願日から“6か月以内”となっています。

おわりに

以上、外国出願の概要についてについて説明させて頂きました。外国出願には、他にも二国間の条約に基づくものや、欧州連合(EU)特有のものなどがありますが、上記の2タイプが基本的なものとなります。

外国出願制度についてもっと詳しく知りたい方は是非とも当所へお気軽にお問合せ、ご相談下さい。

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以下のページでは、「外国への出願」について詳述しておりますので、ぜひご覧ください。

この記事の監修者

八谷 晃典 (はちや あきのり)
大阪法務戦略部長 弁理士/特定侵害訴訟代理人 スペシャリスト

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