はじめに

本来、地方公共団体を表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標は、商標登録を受けることができません(商標法4条1項6号)。その理由は、一般人が地方公共団体を表示する標章について登録を受けることを認めてしまうと、その団体の権威が損なわれてしまうからです。

他方、地方公共団体自身が出願する場合は、例外的に商標登録を受けることができます(同2項)。なぜなら、地方公共団体自身が、自らを表示する標章について登録を受けても、上記問題は生じないからです。

しかしながら、実際には地方公共団体の出願する商標は、団体を表示する標章よりも、彦根市の「ひこにゃん」や熊本県の「くまモン」、千葉県の「チーバくん」等のゆるキャラやマスコットキャラクターに関するものが多いようです。

地方自治体における商標取得の意義

(1)商標登録を受けることによる一般的なメリット

このような商標登録を受けるメリットは、商標登録出願の際に指定しておいた商品や役務(サービス)について、出願人たる地方自治体が商標の使用を独占することができ、他人が無断で使用した場合にその使用の差し止めを求めたり、損害賠償請求を行うことが可能となる点が挙げられます。

(2)地方自治体が商標権を取得することのメリット

上記のような商標権から生じるメリットは、地方自治体においては地域の活性化という形で現れます。

例えば、ゆるキャラのキャラクター図を商品の包装に付して使用したり、ストラップやアクセサリー等の商品として使用したりすることは、そのキャラクターの知名度・人気が高ければ高いほど観光客の増加につなげることができます。

また、商標権を取得するということは、人気キャラクターの偽物が出現した際に法律上の権利に基づいてそれを排除できるということであり、ブランド価値の増大にもつながります。特に、人気キャラクターの場合、そのキャラクターのとる行動が、地方自治体のイメージに結びつけて考えられやすいため、キャラクターの利用(商品化や、キャラクターを介した発言)について慎重に管理する必要性から、法律上の権利の取得は急務といえるでしょう。

さらに、地方自治体が登録商標のブランドイメージを上げることにより、当該登録商標としてのロゴ等を商品に付したり、旅行イベントで使用することで、地域経済の活性化を図ることができます。

加えて、イベント名の商標を付したTシャツの販売によりイベントの周知を図り、そのイベントの成功につなげるということも考えられます。

(3)地域活性化の具体例

例えば、地方自治体ではなくNPO法人が出願したという事例ではありますが、兵庫県養父市大屋町の鉱山鉄道「一円電車」があります。一円電車は、明延地区と朝来市の神子畑選鉱場の間の約6キロを乗車賃一円で走っていた鉱山鉄道です。NPO法人・一円電車あけのべが平成25年6月に商標登録出願し、同26年4月11日に商標登録されました。そして、「一円電車 商標登録」という横断幕をかかげ体験乗車会を行い、平成27年6月に乗車数累計1万1111人を突破し、地域おこしに一役買っています。

さらに、大分県が「おんせん県」について商標登録出願したところ、特許庁に拒絶されてしまいましたが、そのことをPR材料としてTVCMを作成したことが話題となりました。このように商標登録出願をしたという事実を地域活性化につなげることも、アイデア次第で可能といえます(なお、大分県の「おんせん県」については、風呂桶をイメージした図柄を付加することで、商標登録を受けています)。

商標権取得後の取り組み

商標権は、登録を受けた後にも、権利の維持やブランドイメージを守るための取り組みが必要となります。

(1)商標権の更新

商標権は、特許権や意匠権といった他の産業財産権と異なり、存続期間の更新により半永久的に維持することが可能です。そのためには、定められた期間内に更新の手続きをしなければならず、これを怠った場合は権利が消滅します。

このように権利を維持していくためには、法で定められた手続きを適切に踏まなければなりません。

(2)登録商標の適正利用

SNS等のインターネットが重要な情報発信源となっている現在、地方自治体だけで登録商標を使用するのでなく、出来る限り広く民間においても使用してもらうことが、ブランドイメージの増大には重要といえます。

ただ、無制限に認めていたのでは、逆にブランドイメージを低下させてしまうことになりかねません。例えば、B級グルメとして有名になった商品名を他人に勝手に使用され、「美味しくない」として評判を下げてしまったり、愛らしいマスコットキャラクターのイメージを害するような利用形態で使用されるというようなことをイメージすると分かりやすいと思います。

このように地方自治体のブランドイメージの維持・向上のために、登録商標使用のための適正なルール作りが必要となります。

海外における商標登録

日本で商標権を取得していても、海外ではその効力は及びません。ですから、地域ブランドの海外進出を目指す場合、あるいは、すでに海外で販売されている商品の保護を図りたいなどの場合には、それぞれの国ごとに商標登録する必要がございます。

この登録を怠っている間に、海外の第三者に商標を先に出願されてしまうトラブルが頻発しています。

例えば、平成15年の「青森」商標事件では、中国において、果物や野菜などの商品に使用するとして「青森」の商標が第三者によって先に出願されました。中国では出願が官報に告示されてから三か月の異議申し立て期間が存在しており、告示から一か月以上経過してから出願の事実を知った青森県は、この期間中に迅速に異議申立を行うことで、最終的には登録を阻止することができました。しかし、異議申立を行ったのが、平成15年7月であったにも関わらず、中国から出願却下の通知が届いたのは平成19年12月でしたので、実に4年もの期間を要しています。

また、「今治」商標事件は、愛媛県今治市と今治タオルのメーカーでつくる四国タオル工業組合が「今治タオル」の商標を中国で出願しようとしたところ、すでに「今治」の商標が中国企業によって取得されていた事例ですが、こちらも、平成22年の問題の発覚から、平成26年に先願商標の登録を認めない裁定を得るまでに4年の期間を要しました。

これらの事例は、まず第一に、日本の地名に関する商標でも海外で出願、あるいは登録されてしまう恐れがあることを示しています。例えば、中国商標法について見ますと、第10条に「公衆に知られた外国地名」は商標登録できないとの規定がありますが、裏返せば、審査官がそう判断しなければ登録可能ということであり、日本国内で著名であるからといって安心するのは危険です。その他、中国以外でも、台湾にて「さぬき」の名称が商標登録されていた事例がございます。

そして第二に、一度商標に関わるトラブルが発生した場合、その解決に至るまでに長い期間を要することも示しています。年単位の期間、海外で商標が利用できないことになるため、これによって発生する、ブランド展開機会の喪失の不利益や、紛争解決に要する労力は多大なものになるでしょう。

ゆえに、こうした不利益を回避するための事前防衛の策として、海外における商標登録を行うことがいかに重要であるかご理解いただけることと思います。

著作権法との関係

ゆるキャラやロゴマークは著作権法とも関係がございます。

これらは、美術の著作物に該当し著作権法による保護をうけます。著作権は創作そのものによって発生し、権利保護のために出願や登録などの一切の手続が不要ですが、なんら権利に対する措置を講ぜず、放置していると彦根市の「ひこにゃん」のように著作権法上の問題が生じないとも限りません。

著作権には、財産権としての側面と、人格権としての側面があり、財産権については著作者から譲渡を受けることができますが、人格権については一身専属的な権利として譲渡を受けることができません。

このことから、自治体の職員とは無関係のイラストレーターの方等にデザインをお願いしている場合、著作者人格権がイラストレーターの側に残ることから、デザインを利用する側とイラストレーターの側との意見が衝突した場合に、同一性保持権の侵害が問題となることが多々あります。

ゆえに、後々著作権法上の問題が生じないように、事前に契約を交わしておく必要性があることを認識しておかなければなりません。

HARAKENZOが全力サポート

当所は、地方自治体による商標登録出願、商標の適正利用のためのルール作りや、著作権契約等についても全力でサポートします。

その上で、地域の活性化に貢献することができれば、当所にとって望外の喜びとなります。

この記事の監修者

八谷 晃典 (はちや あきのり)
大阪法務戦略部長 弁理士/特定侵害訴訟代理人 スペシャリスト

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商標登録や商標トラブルの解決にあたっては、専門家の判断が欠かせません。
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